研修期間をようやく終え、いよいよ独り立ちの時期がやってきた。
独り立ちといっても、現場には必ず頼もしいベテランの先輩が一人ついてくれている。心細さ半分、心地よい緊張感半分といったところだ。
今日の現場は幸い、車両の出入りも少なく、少しだけゆったりとした時間が流れていた。
空を見上げて気づいた「特等席」
まだまだ空気は肌寒いが、制服越しに感じる冷たさも、春を待つ今の時期ならではのものだ。見上げる空は驚くほど澄み渡っている。
ふと目を上げると、数羽の鳥たちが空を舞っていた。 その動きは、まるで1ミリの狂いもないシンクロナイズドスイミングのようだ。規則正しく、優雅に、空という名の青い海を 右へ 左へと泳いでいる。
「すごいな……」
観客は、交差点に立つ自分一人。 鳥たちにとって、この風は「波」なのだろう。
そう思うと、なんだか自分が大きな自然の劇場の中にいるような、不思議で清々しい
気持ちになった。
会社員時代、事務所の窓から眺めていた空とは違う。 五感で感じる、この現場の空気。 ああ、やっぱりこの仕事を選んでよかった。 そう静かに再確認した瞬間だった。
ハンドル越しの「モラル」という鏡
我々警備員は、街の景色の一部に過ぎないのかもしれない。
ドライバーや近所の人からすれば、日常のありふれた「ひとコマ」だろう。
だが、誘導灯を振り、赤旗を掲げていると、そのひとコマの中に驚くほど濃密な人間模様が見えてくる。
片側通行でストップをかけると、あからさまに不機嫌な表情を浮かべるドライバー。
逆に、「止まってくれてありがとう」とこちらが頭を下げると、発車の合図の際、
丁寧に応えてくれるドライバー。
そんな些細なやり取りに、心は温められたり、時にはキュッと引き締まったりする。
こういう瞬間が、やはり一番嬉しい。
一方で、赤旗を振っているのに気づかず進もうとする人や、
「そんなところで停車したら危ないよ」とヒヤリとさせる人もいる。
誘導していると、その人の「モラル」が実によく分かるのだ。
「日常」という舞台の守り手として
この場所に立っていると、人の本質が見える。 急いでいる時、疲れている時。
そんな時にこそ、ハンドルの扱いや窓越しの視線に、その人の生き方が現れるのかも
しれない。
かつては自分も、ハンドルを握る側の人間だった。 あの頃の自分は、誘導してくれる
警備員にどんな顔を見せていただろうか。
今の自分なら、きっと今までよりも丁寧に、感謝を込めて会釈ができる気がする。
52歳、新人。 空を泳ぐ鳥たちに見守られながら、今日も自分はこの場所で、
誰かの日常の安全を旗一本で支えている。
澄んだ空気をお腹いっぱいに吸い込んで、次の車を迎えよう。
「今日も一日、ご安全に」

コメント